「フィリピン赴任が決まったけど、税金ってどうなるの?」「日本と二重課税されない?」「183日ルールって何?」
――こうした不安を感じている日本人駐在員・移住者の方は少なくありません。
フィリピンで働く日本人は、滞在日数による居住性判定をはじめ、個人所得税・付加給付税(フリンジベネフィットタックス)・確定申告義務・二重課税の回避など、日本とはまったく異なる税制ルールに従う必要があります。特に、フィリピン内国歳入庁への申告義務や、日比租税条約を活用した免税・外国税額控除の理解は、手取り収入や会社コストに直結する重要ポイントです。
知らずに放置すると、申告漏れ・追徴課税・罰金といったリスクにつながることもあります。一方で、制度を正しく理解すれば、合法的に税負担を最適化し、無駄な支出を防ぐことも可能です。本記事では、フィリピンで働く日本人向けに…
- 居住者・非居住者の判定基準
- 個人所得税の税率と計算方法
- 短期滞在者免税の条件
- 付加給付税(住宅・車・教育費など)の扱い
- 確定申告の流れと注意点
- 日本側の税務処理と二重課税回避策
これらを初心者にもわかりやすく、実務目線で徹底解説します。駐在員・移住者・長期出張者のすべての日本人が「損しない」ための税務ガイドとして、ぜひ最後までご覧ください。
目次
フィリピンで働く日本人の税務基礎知識
フィリピンで働く日本人は、居住性の判定により課税範囲が大きく異なります。日本からの駐在員の場合、通常、「外国籍の居住者(Resident Aliens)」に該当すると考えられます。外国籍の居住者については、国内源泉所得のみがフィリピン国内で課税されます。
日本人の税務における重要ポイント
- 居住性の判定:180日以上の滞在で居住者扱い
- 課税範囲:フィリピン国内源泉所得のみ課税
- 日比租税条約:二重課税を回避できる
- 短期滞在者免税:条件を満たせば免税
- 確定申告:翌年4月15日までに申告
居住性の判定と課税範囲
居住者の定義
海外赴任者の場合、183日を超えた滞在は、居住者になると思われます。フィリピンでは期間限定の滞在の場合その期間に関わらず、非居住者として定義されますが、日本フィリピン租税条約があり、出張者は条件を満たせば個人所得税の課税が免除されます。
居住性の区分
| 区分 | 定義 | 課税範囲 |
|---|
| 外国籍の居住者 | 180日以上滞在 | フィリピン国内源泉所得のみ |
| 非居住者 | 180日以下滞在 | フィリピン国内源泉所得(一律25%) |
| 短期滞在者 | 183日以下+条件満たす | 免税 |
フィリピンでは、「フィリピン国籍の居住者(Resident Citizens)」の場合は、フィリピン国内の所得だけでなく、どこで受け取ったに関わらず、その他の国において発生した所得のすべてがフィリピンにおいて課税されることになります(いわゆる、全世界所得の申告が必要になります)が、日本人駐在員は外国籍の居住者として、国内源泉所得のみが課税対象となります。
個人所得税の税率と計算方法
2023年以降の税率表
個人の課税所得に対する税率 税金は、以下の表で定められた税率に従って計算されます。
| 課税所得(年間) | 税率 | 税額計算 |
|---|
| 250,000ペソ以下 | 0% | 0ペソ |
| 250,000~400,000ペソ | 20% | 250,000ペソ超過分の20% |
| 400,000~800,000ペソ | 25% | 30,000ペソ+400,000ペソ超過分の25% |
| 800,000~2,000,000ペソ | 30% | 130,000ペソ+800,000ペソ超過分の30% |
| 2,000,000~8,000,000ペソ | 32% | 490,000ペソ+2,000,000ペソ超過分の32% |
| 8,000,000ペソ超 | 35% | 2,410,000ペソ+8,000,000ペソ超過分の35% |
※1ペソ≒2.6円で計算(2025年1月時点)
日本との税率比較
フィリピンの個人所得税は、日本と比べ高い傾向にあります。900万円までの課税所得であれば、日本の方が安く、それ以上であればフィリピンの方が安くなります。年間の滞在日数が180日以下の場合は、一律で25%になるため、ケースによっては日本と同等になることもあります。
非居住者(180日以下滞在)の税率
なお、年間の滞在日数が180日以下である非居住者の場合は、個人所得税はフィリピン国内の源泉所得にのみ税率25%で固定で課税されます。181日以上の場合は、居住者と同様の税率が課せられます。
短期滞在者免税(日比租税条約)
免税の3つの要件
フィリピンの短期滞在者免税適用の要件は以下の通りです。
- 1. 滞在日数基準: フィリピンでの滞在期間が直近12カ月で合計183日を超えないこと
- 2. 支払地基準: 例として、Aさんに支払われる報酬が、フィリピンの居住者(フィリピン現地法人等)又はこれに代わる者から支払われていないこと つまり、報酬全てが日本本社から支払われていればこの条件はクリアとなる
- 3. PE負担基準: 例として、Aさんに支払われる報酬が、日本の企業がフィリピン国内に保有するPE(恒久的施設)によって負担されていないこと つまり、日本本社が支払った報酬がPEに請求されることがなければこの条件はクリアとなる
免税適用のメリット
3つの要件をすべて満たせば、フィリピンでの個人所得税が免除されます。短期出張者はこの制度を活用できる可能性が高いため、必ず確認しましょう。
課税対象となる所得
フィリピン国内源泉所得とは
フィリピンにおける個人所得に関わる税は国税である所得税と地方税である住民税です。フィリピン国内源泉所得のみが対象で、これはフィリピンの労働の対価として支払われるものであり、例えばフィリピンの駐在員に日本の親会社が日本国内の銀行口座に給与を振り込んでもフィリピン国内源泉所得となり、注意が必要です。
重要ポイント
日本の銀行口座に振り込まれても、フィリピンでの労働の対価であれば、フィリピン国内源泉所得として課税対象になります。
付加給付税(フリンジベネフィットタックス)
付加給付税とは
赴任者に対してこのような給与以外の経済的利益が与えられた場合、フィリピンでは付加給付税(フリンジベネフィットタックス)という税金が課せられます。
特徴:
- 会社に対する税金であり、駐在員の給与に課される個人所得税とは異なる
- 評価額÷65%×35%で計算
- 評価額:現金支給の場合はその支給額。現物支給の場合は公正市場価値を元に算出される
- 住居費用は半額まで経費
対象となる給付
主な対象:
- 住居費用(50%まで経費算入可能)
- 運転手・車両費用
- 子どもの教育費
- 海外出張費
計算例:
住居費用が月10万ペソの場合
- 経費算入可能:5万ペソ
- 課税対象:5万ペソ
- 付加給付税:5万÷0.65×0.35≒26,923ペソ/月
非課税所得
個人所得税を計算する際、非課税所得となるものを控除して課税所得を算出します。フィリピンには非課税所得が多数あるため、代表的なものは抑えておくようにしましょう。
主な非課税所得:
- 13ヶ月給与(最大90,000ペソまで)
- 業績賞与等(年間10,000ペソまで)
- 退職金(一定の条件下)
- 政府保険の給付金
- 奨学金
確定申告と納税義務
申告義務者
フィリピンに居住性がある場合、確定申告をする必要があります。個人の課税対象期間は暦年(1月1日~12月31日)とされており、みなし申告適用者以外の出向者は申告・納付期限は翌年の4月15日までとなります。
源泉徴収の仕組み
従業員を雇用するフィリピン法人は、従業員の給与に係る所得税を源泉徴収し、給与源泉税として税務当局に申告・納付する義務があります。月2回の給与支給時および賞与支給時に所得税を源泉徴収し、加えて年末調整を実施することにより、従業員の所得税納付は完結します。
申告が必要なケース: ただし、日本法人からも給与を受け取る駐在員など、複数の拠点から給与を受け取る場合には、別途確定申告が必要になる可能性があります。
申告期限と罰則
| 項目 | 期限 |
|---|
| 年次確定申告 | 翌年4月15日 |
| 月次源泉税申告 | 翌月10日 |
納税に関しては、誤った申告・遅延等は個人の責任です。しかし最終的に罰金は会社が負担することになることも多いので会社からもしっかり指示・通知・監査を行いましょう。よくあるのは①納税遅延②過少申請となっています。
日本での税務処理
日本の居住者の場合
所得税法基本通達2-1で言うところの「日本国の居住者」である限り、フィリピンで働こうとアフリカで働こうと、日本への所得税の申告・納税の義務があります。ややこしいのですが、住民票を抜いても扱いは「居住者」のままなので、海外での所得に応じた所得税がかかります。一方、一年のうち183日以上外国にいる場合、「非居住者」として扱われ、所得税を払わなくても良い場合があります。
二重課税の回避(日比租税条約)
租税条約とは
租税条約とは、二重課税の排除と脱税の防止の大きく2点を目的として、国家間で締結される成文による国家間の合意(条約)です。この条約については、国家間での約束事であるため、その適用にあたっては、それぞれの国が定めている国内法に優先して適用されることとなります。
フィリピンは、日本を含む44カ国と二国間租税条約を締結している(2024年11月時点。なお、ブルネイとの租税条約は2025年1月1日より効力発生)。日本フィリピン租税条約は2008年末に改正手続きが終了し、2009年1月1日より新税率が適用されている。
日比租税条約の主な内容
日本フィリピン租税条約に基づき、利子送金課税は10%、配当金送金課税は、出資比率10%以上であれば10%、出資比率10%未満であれば15%、ロイヤルティー送金課税は10~15%。
その他の税金
付加価値税(VAT)
付加価値税(VAT:Value Added Tax)とは、フィリピン国内における付加価値を課税対象とする税金であり、日本における消費税のように、フィリピンにおいても物品の販売、役務の提供にあたって、原則として12%の付加価値税が課税されます。
特徴:
- 税率:12%
- 日本の消費税に相当
- 最終消費者が負担
- 月次申告・納付
駐在員が注意すべきポイント
よくある申告漏れ
赴任者の勘違いや知識不足による個人所得税の申告漏れが散見されます。フィリピンは課税所得となるもの、ならないものの区別があります。赴任者の日本の法定福利費は厳密にいうと、すべてフィリピンで課税となります。
日本の社会保険
余談ですが、海外に住んでいるとよく分かるのですが、基本的にその国に籍があるだけでは何の保険もつかない(フィリピンでは労働者につく保険はありますが、かなり低レベル)ことが多いです。病気になったり怪我したりした時には、死が頭によぎります。
駐在員の選択肢:
- 日本の社会保険継続(任意加入)
- フィリピンの社会保険のみ
- 民間の海外旅行保険
フィリピンの平均賃金と税金事情
平均賃金
2024年9月現在、フィリピンの平均賃金は約105,000PHP/年(約8,750PHP/月)と推計されており、メトロ・マニラ(NCR)の非農業就業者の最低賃金は2023年7月16日以降の610PHP/日(約13,270PHP/月)、セブ市は2024年10月2日以降501PHP/日(約10,900PHP/月)となっております。
これは上記の表の課税所得250,000PHP/年を下回っているため、大部分のフィリピン人については所得税が非課税となっています。一方、専門職の給料は近年急速に上昇しており、高給なフィリピン人によって税収が確保されているという実態となっています。
よくある質問(FAQ)
- フィリピンで180日以上働く場合、必ず税金を払う必要がありますか?
-
はい、180日以上滞在すると居住者とみなされ、フィリピン国内源泉所得に対して個人所得税の納税義務が発生します。
- 日本の給与口座に振り込まれた給与も課税されますか?
-
はい、フィリピンでの労働の対価であれば、日本の口座に振り込まれても、フィリピン国内源泉所得として課税対象になります。
- 短期出張の場合も税金を払う必要がありますか?
-
はい、フィリピンでの労働の対価であれば、日本の口座に振り込まれても、フィリピン国内源泉所得として課税対象になります。
- 日本とフィリピンで二重に課税されませんか?
-
日比租税条約により、二重課税は回避できます。外国税額控除制度を利用して、日本での申告時にフィリピンで支払った税金を控除できます。
- 住居費用や車両費用も課税対象ですか?
-
はい、付加給付税(フリンジベネフィットタックス)として会社に課税されます。ただし、住居費用の50%までは経費算入可能です。
- 確定申告は自分でできますか?
-
複雑な税制のため、専門の税理士や会計事務所に依頼することを強く推奨します。
- 13ヶ月給与とは何ですか?
-
フィリピンでは年末に1ヶ月分の追加給与(13ヶ月給与)を支給する義務があります。最大90,000ペソまでは非課税です。
- フィリピンで働いた場合、日本の住民税はどうなりますか?
-
日本の住民票を抜き、海外転出届を提出すれば、翌年度から日本の住民税は課税されません。
- 税率は日本とフィリピン、どちらが高いですか?
-
課税所得900万円までは日本の方が安く、それ以上ではフィリピンの方が安くなる傾向があります。
- 税務申告を怠った場合の罰則は?
-
過少申告や納税遅延には罰金や延滞税が課されます。最終的には会社が負担することが多いため、適切な申告が重要です。
まとめ
フィリピンで働く日本人は、居住性の判定、課税範囲、日比租税条約の理解が非常に重要です。
日本人駐在員の税務ポイント
- 180日以上滞在: 居住者として国内源泉所得に課税
- 累進課税: 0~35%の税率、最高税率は日本より低い
- 短期滞在者免税: 3要件を満たせば免税
- 付加給付税: 住居費等は会社に課税(評価額÷0.65×0.35)
- 確定申告: 翌年4月15日まで、複数源泉の場合は必須
- 日比租税条約: 二重課税を回避可能
フィリピンにおける個人所得に関わる税は国税である所得税と地方税である住民税です。①居住者であっても国内源泉所得しか課税されない ②日本の所得税法に比べて基礎控除がないため、シンプルという特徴があります。
フィリピンの税制は複雑であり、専門家のアドバイスを受けることを強く推奨します。適切な税務処理により、合法的に税負担を最適化し、二重課税を回避しましょう。