「マニラの渋滞は地獄」――そう聞いたことがある方も多いでしょう。実際、マニラ都市圏では人口集中による深刻な交通渋滞が1日約35億ペソ(日本円にして約80億円)もの経済的損失を生むともいわれています。
しかし、知る人ぞ知る抜け道があります。それがMRT(Metro Rail Transit)とLRT(Light Rail Transit)です。マニラの電車は「危険」「複雑」というイメージを持たれがちですが、実際は適切な時間帯に利用すれば、驚くほど快適で経済的な移動手段なのです。
この記事では、マニラの電車を初めて利用する方でも迷わないよう、3路線の違いから、Beepカードの入手方法、実際の乗り方、絶対に避けるべき時間帯、スリ対策まで、2025-2026年の最新情報をもとに完全解説します。マニラ在住者はもちろん、観光で訪れる方、留学生、ビジネスパーソンまで、この記事を読めばマニラの電車を使いこなせるようになります。
目次
マニラの電車とは?基本を理解する
3種類の鉄道システム
フィリピンの首都マニラには、主に3つの鉄道路線があります。
LRT(Light Rail Transit)
- LRT-1(グリーンライン):南北縦断
- LRT-2(ブルーライン):東西横断
MRT(Metro Rail Transit)
PNR(Philippine National Railways)
- マニラ首都圏と地方都市を結ぶ長距離路線
- 観光客の利用機会は少ない
ここからは利用機会の多いLRT-1、LRT-2、MRT-3の3路線に焦点を当てて解説します。
なぜ電車を使うべきなのか
メトロ・マニラは車の渋滞が悪化しており、場所によっては電車のほうが早く到着できることもあります。
電車利用のメリット
- 渋滞に巻き込まれない
- 料金が格安(15~45ペソ=約40~120円)
- 時間が読める
- 安全(適切な時間帯なら)
- エアコン完備
デメリット
- ラッシュ時は大混雑
- 終電が早い(21時~22時台)
- 路線数が少ない
- スリのリスク
LRT-1(グリーンライン)|南北を縦断する最古の路線
基本情報
1984年12月に開通したLRT 1号線は、フィリピンで最初の高速鉄道路線であり、東南アジアで2番目のライトレールとされています。
路線データ
- 別名:グリーンライン
- 全長:約20.7km
- 駅数:25駅(2024年11月延伸後)
- 運賃:15~45ペソ(約40~120円)
- 運行時間:
- 平日:4:30~22:15
- 週末・祝日:5:00~22:15
2024年11月の大型延伸
Dr.Santos~EDSA駅は2024年の11月に延長開業した路線で、これによりパラケーニャ市まで電車で足を運べるようになりました。
新駅(2024年11月16日開業)
- Redemptorist-Aseana駅
- MIA Road駅
- PITX駅(パサイ統合ターミナル近く)
- Ninoy Aquino Avenue駅(空港近く)
- Dr. Santos駅
この延伸により、ニノイ・アキノ国際空港へのアクセスが大幅に改善されました。
主要駅と観光地
Fernando Poe Jr.駅(北端)
Monument駅
Doroteo Jose駅
- LRT-2との乗り換え駅
- チャイナタウン(ビノンド)近く
United Nations駅
- リサール公園徒歩10分
- イントラムロス徒歩15分
- マニラ・オーシャンパーク
Pedro Gil駅
EDSA/Taft Ave駅
- MRT-3との重要な乗り換え駅
- MOA(SMモール・オブ・アジア)へのアクセス
Baclaran駅
- バクラランマーケット
- Seaside Dampaシーフードレストラン
LRT-1公式アプリ
LRT-1には「ikotMNL Mobile App」という公式アプリがあり、駅の混雑状況、列車の発着状況、最寄りのレストラン、モール、観光地などをリアルタイムで知ることができます。
Google Play StoreまたはApp Storeから無料ダウンロード可能です。
LRT-2(ブルーライン)|東西を横断する最新路線
基本情報
2000年代に完成した路線なので、駅にはバリアフリー設備など最新機能が搭載されています。
路線データ
- 別名:ブルーライン
- 全長:約13.8km
- 駅数:11駅
- 運賃:15~30ペソ(約40~80円)
- 運行時間:5:00~21:30(全日)
LRT-2の特徴
メリット
- 車内が広い
- 比較的空いている
- 駅が新しくきれい
- バリアフリー対応
デメリット
主要駅
Recto駅(西端)
- LRT-1との乗り換え駅
- チャイナタウン(ビノンド)近く
- Divisoria市場
Cubao駅
- MRT-3との乗り換え駅
- Araneta City
- SMノースEDSA近く
Santolan駅(東端)
Antipolo駅
MRT-3(イエローライン)|最も混雑するビジネス路線
基本情報
マカティを結ぶ路線であるため、マニラ近郊電車3線の中で最も利用客の多い路線として知られています。
路線データ
- 別名:イエローライン
- 全長:約16.9km
- 駅数:13駅
- 運賃:13~28ペソ(約35~75円)
- 運行時間:
- 平日:5:30~22:30
- 週末・祝日:5:30~22:30
MRT-3の特徴
最混雑路
マカティ、オルティガスなどビジネス街を通るため、平日朝夕は入場制限がかかるほど混雑します。
日本企業の関与
MRT3号線は、マニラの主要幹線道路であるエドサ通り沿いを走る都市鉄道です。日本企業による初の海外都市鉄道建設プロジェクトとして、三菱重工グループと住友商事が建設しました。
2000年の全線開業後、20年以上にわたりマニラ市民の重要な足として機能しています。
主要駅
Taft Avenue駅(南端)
- LRT-1との乗り換え駅
- 空港方面へのアクセス
- デラサール大学近く
Magallanes駅
Ayala駅
- グリーンベルトモール
- アヤラセンター
- マカティCBD中心部
Buendia駅
Shaw Boulevard駅
Ortigas駅
Cubao駅
- LRT-2との乗り換え駅
- Araneta City
North Avenue駅(北端)
3路線の乗り換えポイント
主要乗り換え駅
| 乗り換え駅 | 接続路線 | 備考 |
|---|
| EDSA/Taft Ave | LRT-1 ⇔ MRT-3 | 最重要乗り換え駅 |
| Doroteo Jose | LRT-1 ⇔ LRT-2 | チャイナタウン近く |
| Cubao | LRT-2 ⇔ MRT-3 | 大型モール近く |
乗り換えの注意点
重要
- 乗り換えには一度改札を出る必要があります
- 再度チケットまたはBeepカードが必要
- 混雑時は乗り換えに15分以上かかることも
- 駅間の徒歩移動が必要な場合もあり
電車の乗り方|ステップ・バイ・ステップ
ステップ1:チケットまたはBeepカードを準備
切符購入の場合
- チケット窓口に並ぶ
- 目的地を伝える(例:”Ayala, please”)
- 料金を支払う
- Single Journey Ticket(カード型)を受け取る
Beepカードの場合
- 事前にチャージ
- 改札でタッチするだけ
ステップ2:手荷物検査
改札を通る前に、かばんの中身をチェックされます。駅構内には危険物の持ち込みが禁止されています。
禁止物
- 刃物(ナイフ、ハサミ等)
- 可燃物
- 大型の荷物(スーツケースは要確認)
- 飲食物(水以外)
X線検査機または目視検査を受けます。
ステップ3:改札を通る
- 切符の場合: チケットを改札に通します。チケットが上から出てくるので必ず受け取りましょう。改札の形が日本と違うため、改札を通ることに気を取られてチケットを取り忘れる事が多々ありますので注意しましょう。
- Beepカードの場合: タッチパネルにタッチするだけ。残高が表示されます。
重要: 切符は降車時にも必要です。紛失すると罰金の可能性があります。
ステップ4:ホームへ移動
進行方向の確認
- 行き先の駅名表示をチェック
- LRT-1は古い路線のため、逆方向ホームへの通路がありません
- 間違えると一度改札を出る必要あり
ステップ5:電車に乗車
電車の前方車両には「LOADING AREA」という女性、高齢者専用車両が設けてありますので、女性一人での利用も安心です。
車内での注意
- 揺れが激しいため、つり革や手すりにつかまる
- 貴重品は前に持つ
- リュックは前に抱える
- スマホを出したまま寝ない
ステップ6:下車・改札を出る
- 目的地の駅名アナウンスを確認
- ドアが開いたら下車
- 改札機に切符を入れる/Beepカードをタッチ
- 改札を出る
Beepカード完全ガイド
Beepカードとは
beepカードはLRT-1、LRT-2、MRT-3の全駅でP30で購入でき、支払額の差額がチャージされる。最長4年間有効。
日本のSuicaやPASMOと同じ交通系ICカードで、外国人でも購入・利用可能です。
Beepカードのメリット
窓口に並ぶ必要なし
チケット購入の長蛇の列をスキップできます。ラッシュ時は1時間以上並ぶこともあるため、時間の大幅節約になります。
運賃が安くなる
1回券購入だと20ペソなんです。割合にしたら、かなり大きくないですか?!?!
路線や距離によりますが、3~5ペソ程度割引になる場合があります。
複数路線で使える
LRT-1、LRT-2、MRT-3全てで使用可能。
バスでも使える
P2Pバス、エアポートループバスなど一部バスでも利用可能。
コンビニで買い物
ファミリーマート、アンクルジョンズ、ローソンの一部店舗で決済可能。
有効期限4年
旅行者も次回の訪問まで保管できます。
Beepカードの購入方法
駅の窓口で購入
- LRT・MRT各駅の窓口へ
- “Beep card, please”と伝える
- 30ペソを支払う(カード代のみ)
- カードを受け取る
- 別途チャージが必要
注意
在庫がない駅も多いため、複数の駅で確認する必要があります。
コンビニで購入
- ファミリーマート
- アンクルジョンズ
- その他一部店舗
オンラインで購入
- Shopee(ショッピー)
- Lazada(ラザダ)
オンライン購入の場合、チャージ残高は0円です。利用前に必ずチャージしてください。
※ 空港では買えない
マニラの空港でBeepカードは購入できません。市内の駅またはコンビニで購入してください。
Beepカードのチャージ方法
方法1:チャージ機を利用
- 駅構内のチャージ機へ
- Beepカードを置く
- 現在の残高が表示される
- 紙幣・硬貨を投入(おつりは出ません)
- “OK”をタッチ
- チャージ完了
方法2:窓口でチャージ
- チケット窓口へ
- “Load, please. 〇〇 pesos”と伝える
- 現金を渡す
- カードをチャージしてもらう
方法3:モバイルアプリ
モバイルアプリをインストールし、アカウントを登録することで、クレジットカードや電子マネーからチャージが可能。アプリでは残高の確認、取引履歴の確認、ポイントを貯めることもできる。
チャージ上限
最大P10,000までチャージが可能だが、紛失時に払い戻しはできないので、ご注意を。
必要最小限のチャージにとどめることをおすすめします。
Beepカードの有効期限
有効期限は最長4年間です。期限が切れると改札で”Expired”と表示され、使用できなくなります。窓口で更新または新規購入が必要です。
Beepカードが使える場所
電車
バス
- P2Pバス(マニラ↔空港など)
- エアポートループバス
- 一部の市営バス
コンビニ・店舗
- ファミリーマート(約100店舗)
- アンクルジョンズ
- ローソン(一部店舗)
料金体系
距離別運賃表
LRT-1
- 1~4駅:15ペソ
- 5~9駅:20ペソ
- 10~14駅:25ペソ
- 15駅以上:30~45ペソ
LRT-2
- 1~4駅:15ペソ
- 5~9駅:20ペソ
- 10駅以上:25~30ペソ
MRT-3
- 1~3駅:13ペソ
- 4~7駅:15ペソ
- 8~10駅:20ペソ
- 11駅以上:25~28ペソ
Beepカード割引
切符購入より3~5ペソ安くなる場合があります。
子供料金
身長1m以下の子供は無料。それ以上は大人料金。
運行時間と運行間隔
運行時間
| 路線 | 平日始発 | 平日終電 | 週末始発 | 週末終電 |
|---|
| LRT-1 | 4:30 | 22:15 | 5:00 | 22:15 |
| LRT-2 | 5:00 | 21:30 | 5:00 | 21:30 |
| MRT-3 | 5:30 | 22:30 | 5:30 | 22:30 |
重要
マニラの終電は非常に早いです。夜遅い移動にはGrabなどの配車サービスを利用しましょう。
運行間隔
基本的に全ての電車には時刻表はなく、通常は15分~20分間隔、朝夕のラッシュ時は5分間隔で運行しています。
時刻表がないため、ホームで待つスタイルです。
利用時の絶対的注意点
1. ラッシュアワーは絶対避ける
ラッシュ時間帯にはどの電車も大変混雑します。特にLRT1とMRTは入場制限がかかり、電車に乗るだけでも40分以上かかってしまうこともあります。
混雑する時間帯
- 平日朝:7:00~9:00
- 平日夕:17:00~20:00
おすすめ利用時間
- 午前:9:30~11:30
- 午後:13:00~16:30
- 週末
ラッシュ時は日本の満員電車以上の混雑で、入場制限により1時間以上待つこともあります。この時間帯はGrabやタクシーの利用を強く推奨します。
2. スリ・置き引きに厳重注意
人の出入りが激しいため、スリも多く発生します。財布や携帯電話などの貴重品は鞄の中に入れて、鞄は自分の前に持ち、リュックは前にからうようにしてください。
スリ対策
- 貴重品は分散して持つ
- リュックは前に抱える
- 財布はポケットに入れない
- スマホを見ながら寝ない
- 混雑時は特に警戒
- 高価な時計やアクセサリーは避ける
3. 改札で切符を取り忘れない
日本と改札の形が異なるため、切符を取り忘れる人が続出しています。必ず上から出てくる切符を取りましょう。
4. 冷房が効きすぎる
車内は冷房が非常に効いています。長袖の羽織物を持参することをおすすめします。
5. 女性専用車両の活用
電車の前方車両には「LOADING AREA」という女性、高齢者専用車両が設けてありますので、女性一人での利用も安心です。
女性の方は積極的に利用しましょう。
6. 車内での飲食禁止
車内での飲食は禁止されています。水分補給も控えましょう。
7. 大きな荷物
スーツケース等の大きな荷物は持ち込み可能ですが、混雑時は避けるべきです。手荷物検査でチェックされます。
便利なアプリ
Sakay.ph|乗換案内アプリ
公共交通機関の乗換案内をしてくれるアプリ。電車だけでなく、ジプニー、バス、UVエクスプレスなども含めて経路を提案してくれます。
機能
- 経路検索
- 所要時間・料金の表示
- 複数の移動手段の提案
- リアルタイム情報(一部)
ikotMNL|LRT-1公式アプリ
LRT-1には「ikotMNL Mobile App」という公式アプリがあり、駅の混雑状況、列車の発着状況、最寄りのレストラン、モール、観光地などをリアルタイムで知ることができます。
Google Play StoreまたはApp Storeからダウンロード可能です。
Beep公式アプリ
残高確認、取引履歴、チャージ、ポイント管理ができる公式アプリです。
主要観光地へのアクセス
イントラムロス(旧市街)
最寄駅:LRT-1 United Nations駅
所要時間:駅から徒歩15分またはトライシクル5分
リサール公園
最寄駅:LRT-1 United Nations駅
所要時間:駅から徒歩10分
マニラ・オーシャンパーク
最寄駅:LRT-1 United Nations駅
所要時間:駅から徒歩20分またはタクシー10分
マカティ・グリーンベルトモール
最寄駅:MRT-3 Ayala駅
所要時間:駅直結、徒歩5分
SMモール・オブ・アジア(MOA)
最寄駅:LRT-1 EDSA駅
所要時間:駅からジプニーまたはタクシー15分
チャイナタウン(ビノンド)
最寄駅:LRT-2 Recto駅またはLRT-1 Carriedo駅
所要時間:駅から徒歩10分
SMメガモール
最寄駅:MRT-3 Ortigas駅
所要時間:駅直結、徒歩5分
アヤラモール
最寄駅:MRT-3 Ayala駅
所要時間:駅直結
よくある質問(FAQ)
- 外国人でも電車に乗れますか?
-
はい、誰でも利用可能です。ただし、ラッシュアワーは避けることをおすすめします。
- 英語派通じますか?
-
駅員は基本的な英語が通じます。目的地の駅名を伝えれば切符を購入できます。
- 大きな荷物は持ち込めますか?
-
スーツケース等の大きな荷物は持ち込み可能ですが、混雑時は避けるべきです。手荷物検査でチェックされます。
- 子供料金はありますか?
-
身長1m以下の子供は無料です。それ以上は大人料金が適用されます。
- 電車内で飲食はできますか?
-
禁止されています。水分補給も控えましょう。
- Wi-Fiは使えますか?
-
一部の駅ではフリーWi-Fiがありますが、速度は遅く不安定です。
- 空港から電車でアクセスできますか?
-
LRT-1の延伸により、Ninoy Aquino Avenue駅からアクセス可能になりました(2024年11月~)。
- Beepカードは空港で買えますか?
-
購入できません。市内の駅またはコンビニで購入してください。
- 治安は大丈夫ですか?
-
適切な時間帯に利用し、スリに注意すれば問題ありません。ラッシュ時と夜間は避けましょう。
- 時刻表はありますか?
-
基本的に全ての電車には時刻表はなく、通常は15分~20分間隔で運行しています。
まとめ
マニラの近郊電車は一見すると複雑に感じるかもしれませんが、コツを掴めば誰でも簡単に乗車できる便利な移動手段です。
マニラ電車利用の成功ポイント
- Beepカードを入手: 時間の大幅節約、運賃割引
- ラッシュアワーを絶対避ける: 7:00~9:00、17:00~20:00は避けましょう
- スリに注意: 貴重品は前に持ち、リュックは前に抱える
- 終電時間を確認: 21時~22時台と早めです
- Sakay.phアプリを活用: 経路検索に便利
- 乗り換えは一度改札を出る: 再度チケット/カードが必要
- 女性専用車両を活用: 女性の方は積極的に利用を
渋滞がひどいマニラでは、電車を上手に活用することで、時間を有効に使えます。マニラの電車は、適切な時間帯に利用すれば、渋滞知らずで快適に移動できる素晴らしい交通手段です。この記事を参考に、ぜひマニラの電車移動にチャレンジしてみてください。